発達障害とは

 発達障害者支援法において、「発達障害」は「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」(発達障害者支援法における定義 第二条より)と定義されています。

 これらのタイプのうちどれにあたるのか、障害の種類を明確に分けて診断することは大変難しいとされています。障害ごとの特徴がそれぞれ少しずつ重なり合っている場合も多いからです。また、年齢や環境により目立つ症状が違ってくるので、診断された時期により、診断名が異なることもあります。また、支援によって状態は変化していきます。早期発見・早期支援により、うまく適応したり、問題なく社会生活が送れたり、成長発達していきます。

 大切なことは、その人がどんなことができて、何が苦手なのか、どんな魅力があるのかといった「その人」に目を向けることです。その人その人に合った支援があれば、だれもが自分らしく、生きていけるのです

 


 

発達障害のある方にはこんな特徴が見られます

 

自閉症とは?

 自閉症は多くの遺伝的な要因が複雑に関与して起こる生まれつきの脳機能障害で、症状が軽い人たちまで含めると約100人に1人いると言われています。自閉症の人々の状態像は非常に多様であり、信頼できる専門家のアドバイスをもとに状態を正しく理解し、個々のニーズに合った適切な療育・教育的支援につなげていく必要があります。
 自閉症は「1. 対人関係の障害」「2. コミュニケーションの障害」「3. パターン化した興味や活動」の3つの特徴をもつ障害で、生後まもなくから明らかになります。最近では症状が軽い人たちまで含めて、自閉症スペクトラム障害という呼び方もされています。


自閉症概念の広がり

 長い間、自閉症はかなり稀で重い障害だと考えられてきました。しかし最近、比較的症状が軽い「アスペルガー症候群」や「非定型自閉症」の存在がよく知られるようになりました。これまで周囲に理解されず性格の問題などと誤解に苦しみ、支援の対象でなかった人たちが気づかれるようになったのです。


自閉症の原因

 自閉症の原因はまだ特定されていませんが、多くの遺伝的な要因が複雑に関与して起こる、生まれつきの脳の機能障害が原因と考えられています。胎内環境や周産期のトラブルなども、関係している可能性があります。親の育て方が原因ではありません。


自閉症の症状・合併症

 自閉症の人々の状態像は、年齢や知的障害(精神遅滞)の有無、症状の程度などによって非常に多様です。幼児期では「目が合わない」「他の子に関心がない」「言葉が遅い」などで気づかれることが多く、「一人遊びが多い」「指さしをしない」「人のまねをしない」「名前を呼んでも振り向かない」「表情が乏しい」「落ち着きがない」「かんしゃくが強い」などもよく見られます。


自閉症の治療、支援

 現代の医学では自閉症の根本的な原因を治療する事はまだ不可能ですが、彼らは独特の仕方で物事を学んでいくので、個々の発達ペースに沿った療育・教育的な対応が必要となります。かんしゃくや多動・こだわりなど、個別の症状は薬によって軽減する場合があります。信頼できる専門家のアドバイスをもとに状態を正しく理解し、個々のニーズに合った適切な支援につなげていく必要があります。乳幼児期から始まる家庭療育・学校教育そして就労支援へと、ライフステージを通じたサポートが、生活を安定したものにすると考えられています。

 

 

 

アスペルガー症候群とは?

 アスペルガー症候群は広い意味での「自閉症」に含まれるひとつのタイプで、幼児期に言語発達の遅れがなく比較的わかりにくいですが、成長とともに対人関係の不器用さがはっきりすることが特徴です。これまでは学童期以降あるいは成人後に初めて診断を受けることが少なくなかったのですが、幼児期に診断を受けるケースも増えてきました。早い時期から子どもの特徴を理解し、ニーズに合った適切な支援につなげていくことが、子どもの発達には望ましいことです。


 アスペルガー症候群は、広い意味での「自閉症」のひとつのタイプです。最初に症例を報告したハンス・アスペルガーというオーストリアの小児科医の名前にちなんでつけられました。アスペルガー症候群は、自閉症の3つの特徴のうち「対人関係の障害」と「パターン化した興味や活動」の2つの特徴を有し、コミュニケーションの目立った障害がないとされている障害です。言葉の発達の遅れがないというところが自閉症と違うところです。知的発達に遅れのある人はほとんどいません。


広い意味でのアスペルガー症候群

 高機能自閉症・非定型自閉症などは、厳密にはアスペルガー症候群と区別されますが、「知的発達に明らかな遅れがないが、自閉症の特徴を有している」という点では共通しています。そのため一般的には「アスペルガー症候群」は、それらの人たちも含めて広い意味で使用される傾向があります。以下で述べる特徴等は、それらの障害にも当てはまります。また「高機能」というのは「知的発達に明らかな遅れがない」ことを表し、自閉症状の程度(現れ方)とは無関係な用語です。「高機能」でも自閉症状の強い人々もいますので、決して支援が少なくていいわけではなく個人にあった支援が必要です。


アスペルガー症候群の特徴

 アスペルガー症候群の人々には、「表情や身振り、声の抑揚、姿勢などが独特」「親しい友人関係を築けない」「慣習的な暗黙のルールが分からない」「会話で、冗談や比喩・皮肉が分からない」「興味の対象が独特で変わっている(特殊な物の収集癖があるなど)」といった特徴があります。このほかに身体の使い方がぎこちなく「不器用」な場合が多くみられます。

 

幼児期のアスペルガー症候群の特徴

 アスペルガー症候群の子どもは、言語や知能の発達に遅れがないため、これまで幼児期に気づかれることがあまりありませんでした。しかし近年では、幼児期にみられる特徴が少しずつわかってきました。「ひとり遊びを好む」「人とするごっこ遊びが広がりにくい」「同じ遊びを繰り返す傾向が強い」「行動がパターン化し融通がきかない」などです。保育園や幼稚園では「他の子どもにあまり関心がない」「集団で遊ばない」などの特徴がみられます。このような子どもは集団生活ではストレスをためやすいので、できる限り早期から子どもの特徴を理解し、その子どもにあった支援を専門家に相談して、家庭や地域と連携して行うことは、子どもが安心して力を伸ばしていくことにつながります。

 

 

 


広汎性発達障害(PDD)とは?

 広汎性発達障害(PDD:pervasive developmental disorders)とは、自閉症、アスペルガー症候群のほか、レット障害、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害をふくむ総称です。支援については自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害、共に同じと考えて構いません。最近では自閉症スペクトラム障害といった「スペクトラム(連続体)」という考え方が主流です。

 

 


ADHD(注意欠如/多動性障害)とは?

 AD/HD(注意欠如/多動性障害)は、「不注意」と「多動・衝動性」を主な特徴とする発達障害の概念のひとつです。AD/HDを持つ小児は家庭・学校生活でさまざまな困難をきたすため、環境や行動への介入や薬物療法が試みられています。AD/HDの治療は人格形成の途上にある子どものこころの発達を支援する上でとても重要です。
 

 AD/HDの有病率は報告によって差がありますが、学齢期の小児の3-7%程度と考えられています。AD/HDを持つ子どもの脳では、前頭葉や線条体と呼ばれる部位のドーパミンという物質の機能障害が想定され、遺伝的要因も関連していると考えられています。
AD/HDの診断については、アメリカ精神医学会の診断基準に記述されており、下記などの条件が全て満たされたときに診断されます。


1.「不注意(活動に集中できない・気が散りやすい・物をなくしやすい・順序だてて活動に取り組めないなど)」と「多動-衝動性(じっとしていられない・静かに遊べない・待つことが苦手で他人のじゃまをしてしまうなど)」が同程度の年齢の発達水準に比べてより頻繁に強く認められること
2.症状のいくつかが7歳以前より認められること
3.2つ以上の状況において(家庭・学校など)障害となっていること
4.発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
5.広汎性発達障害や統合失調症など他の発達障害・精神障害による不注意・多動-衝動性ではないこと


 このようにAD/HDの診断は医師の診察で観察された行動上の特徴に基づいて行われ、それ単独で診断ができるような確立した医学的検査はありません。しかし一部の神経疾患・身体疾患・虐待・不安定な子育て環境などが子どもにAD/HDそっくりの症状を引き起こす場合があり、小児科・小児神経科・児童精神科医師による医学的評価は非常に重要です。
 

 AD/HDを持つ子どもは意識的に症状を予防しようと試みても、どうしてもじっとしていられず、学校で必要な持ち物を忘れたり失くしたりしてしまいます。このような失敗行動は通常両親や教師たちに厳しく叱責されるため「どんなにがんばってもうまくいかない自分」という否定的な自己イメージを持ちやすく、家庭や学校においてつらい思いをしていることが多いようです。さらにAD/HDを持つ子どもは学業不振や対人関係で悩むだけでなく、気分が落ち込んだり、不安感をコントロールできなくなるなど、心の症状を合併することもあります。このため子どもがなんらかの困った行動を呈しており、その背後にAD/HDの特性があると診断される場合には医学的治療が必要です。
 

 AD/HDを持つ子どもの治療は「1. 薬物療法」「2. 環境への介入」「3. 行動への介入」などを組み合わせて行うと効果が高いといわれています。
 

 メチルフェニデートという薬剤がAD/HDの不注意・多動-衝動性を軽減する可能性がありますが、これは登録された専門医療機関でのみ処方が可能です。最近では新たにアトモキセチンという薬剤も処方可能になりました。
 

 子どもを取り巻く環境を暮らしやすいものにするための介入としては、教室での机の位置や掲示物などを工夫して本人が少しでも集中しやすくなる方法を考える物質的な介入や、勉強や作業を10分-15分など集中できそうな最小単位の時間に区切って行わせる時間的介入などが有効です。行動への介入では、子どもの行動のうち、好ましい行動に報酬を与え、減らしたい行動に対しては過剰な叱責をやめて報酬を与えないことで、好ましい行動を増やそうという試みを行います。問題行動を抑制できたことやその頻度が減ることなどにも注目してしっかりと褒めてあげることが重要です。報酬を得点化して一定数になったら何らかの特別なご褒美・行事への参加(映画に行く・博物館に行くなど)につなげるようにします。
 

 多動症状をただ押さえ込むようなスタンスの治療は良い結果を生みません。親の立場から見える子どもの問題と、子ども本人が感じている困難さは同じでないことの方が多いのです。家族と専門家・教師の連携は言うまでもなく重要ですが、親子こそがしっかり連携して双方の「言い分」をやり取りできる雰囲気があると、AD/HDを持つ子どもはこの障害を乗り越えるのに必要な力を得ることができるでしょう。

 

 

 


学習障害(LD)とは?

 学習障害(LD)は、読み書き能力や計算力など算数機能に関する特異的な発達障害のひとつです。的確な診断・検査が必要で、ひとりひとりの能力に応じた対応策が求められます。AD/HD・高機能自閉症などを伴う場合には、それらを考慮した学習支援も必要で、家庭・学校・医療関係者の連携が欠かせません。

 学習障害(LD)には教育的な立場でのLD(Learning Disabilities)と医学的な立場でのLD(Learning Disorders)の2つの考え方があります。最近は健常児とは異なった学習アプローチをとるという点から、Learning Differences(学びかたの違い)と呼ぶ人も出てきています。教育の立場では聞いたり話したりする力など学習面での広い能力の障害を含み、医学的LDは「読み書きの特異的な障害」「計算能力など算数の特異的な発達障害」を指すことが多いようです。一時期、言語性LD・非言語性LDという言い方もされていましたが、現在は用いられません。

 

 


その他の発達障害

 上記のほかに発達性協調運動障害なども発達障害者支援法に基づく発達障害の定義にふくまれています。






参考文献
厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイトより
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・思春期精神保健部 小山 智典
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・思春期精神保健部 神尾 陽子
Kim et al., 2011, Am J Psychiatry Sep;168(9):904-12.  Sandin et al., 2014, JAMAMay 7;311(17): 1770–1777.